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うわっ to love

暑くも寒くもない頃。どぅいう理由だか覚えてないけど、帰りが遅くなったある日のこと。すっかり暗くなった茶屋町駅のホームは静まりかえっていて、僕はひとりベンチに座っていた。MDウォークマンも電池切れで手持ち無沙汰なので、することと言えば目を瞑って児島駅を降りてから家で寝るまでの行動を事細かに決めることくらい。僕のこの姿を見た人は随分難しい顔で寝る高校生だなとでも思うんだろう。いつものように難しい顔で瞑想を始めると、誰かが階段を上がってくるのがわかった。

< うわっ編 05.12.05up >

それは、少し派手な風貌のお姉さんで、僕の目の前を通って躊躇なく僕の隣の隣の席に座った。お姉さんは僕を意識してないだろうが、僕は瞑想をやめ、当然のようにお姉さんの顔を見ることに必死になった。目の前を通ったときに見なかったことを後悔しつつ、策を練る。時計を探すフリをして、電光掲示板を見るフリをして、とにかくあの手この手で果敢にお姉さんを見ようとした。そんなことをしてるうち、おそらく数分が過ぎたころだろうか、お姉さんのケータイがけたたましく鳴る。もちろん僕は彼女の声と電話の内容を推測するために耳を澄ませ、神経を集中した。

上の町駅で降りること、とてもおなかがすいていること、誰かに駅まで迎えに来てもらうこと、そしてナチュラルな関西弁であること。申し分ない情報だった。
「19分に乗るんやけど、何分に着くかわからへん」
この瞬間、不覚にも彼女と目がばっちり合ってしまった。しかし、僕は驚くほどスムーズに
「15分くらいですよ、上の町なら」
と言っていた。彼女はありがとう的なウインクに近い顔をした、気がした。後になって気付いたけど、僕が会話を聞いていたことが丸バレだった。少し気まずいことになるかと思ったけど、電話を切った彼女はありがとうも言わずにごく自然に沈黙を作った。安心したような、がっかりしたような、すっかり気を抜いて僕は再び目を瞑った。

電車が来るにはまだ20分近くある。寝ても電車の到着とともに起きる自信はあった。そんなとき、右側に急に気配を感じた。うつむいたまま目を開くと、おねえさんの太ももが目の前に。お姉さんは隣にいた。期待以上の状況に喜ぶ前に驚いた。
「ねぇねぇ、車に興味ない?」
イントネーションが関西弁。僕の中で愛内里菜と話してる気分だった。驚きはすっかり喜びに変化していた。
「あんまり…」
この愛想のない答えは僕の計算。からかってる雰囲気を出すのが目的だった。こういうキャラはいじってこそ会話が盛り上がる、これが僕の読み。車の話を盛り上げる自信も、知ったかぶりをする自信もなかった僕はこの作戦で勝負に出た。
「えぇ~?この車めっちゃかっこよぉない?」
里菜は車雑誌を広げた。左ページは僕の右太ももの上に、右ページは彼女の左太ももの上に。知らないお姉さんと肩を並べて同じ雑誌に目を落としてる、こんなことはめったにあるもんじゃない。計算どおりだし、姉さん相違ない。
「今、教習所通ってんねんけど、免許とったらコレ乗んねん、インパラ!」
いかつい外車を指差した。それは左ページ、俺の右太ももにあった。
「これに若葉は似合わないっすよ」
精一杯からかったつもりだった。
「そんなこというなやぁ~。これに若葉はつけんでえぇんやて。」
おそろしくレベルの低い会話だけど、里菜との会話はすばらしくいい気分だった。年上と楽しく話してみよう。ここから僕は本気になった。



< to love(?)編 05.12.08up >

電車がきた。

電車が来てやっと顔をあげることができたわけだけど、まわりには後輩らしい女の子二人組みや、他校のいかにも野球部なやつが立って電車を待っていた。女の子たちはいいとしても、この野球部は僕ら二人をどんな関係だと思っているんだろうなんてことを思ったりする。ただ、ちらっと見た限り野球部は何食わぬ顔で前だけを見ていた。逆の立場なら自分もそぅするだろうとも思った。

里菜との会話はなかなかスムーズだった。岡山生まれ大阪育ち、わけありで帰省中、最近はアメ車に夢中、そして、とにかく岡山が久しぶりらしい。大学に入って学んだことのひとつに「初対面の人との世間話には地元や方言の話がカタイ」ってのがあるけど、今考えれば僕は高校生にしてそのことを学んでいた。
「関西弁はずるいっすね」
この台詞のテンドンで笑いをとった。“ずるい”だの“かわいい”だの“つぼ”だの。ここまで誉め殺しをするのは生まれて初めてだった。今思えば、こんなことができたのも里菜のリアクションのかわいさがあったからだろう。ただ、僕はずっと斜め下を見ていた。さすがに顔を見ながらは言えなかった。そんな時、電車がきた。

里菜は雑誌を取り上げて、女の子たちよりも野球部よりも前に割り込んだ。誰もきれいに並んでいるわけではないけど、確実に暗黙の了解は無視していた。「さすが大阪育ち」ってからかいたくなったけど、それはしなかった。というか、できなかった。席を立った里菜は近くの後輩らしい女の子たちや野球部と同じ距離感の人間、ただ同じ電車に乗り合わせただけの関係に違いないと思えたからだ。考えてみれば、20分弱談笑しただけの関係。そぅ言い聞かせながら、里菜、女の子たち、野球部の順に電車に乗り込んでいくのを眺めていた。それからゆっくり立ち上がって、みんなと同じ入り口に向かった。

電車は空いてはいるけど、座れない、一番バツの悪い混雑率だった。2人掛けが向かい合った形の4人掛けと普通の2人掛けがあるわけだけど、それぞれに一人ずつ座っていた。そして野球部がひとり奥のドアにもたれかかるように立っている。こうなると、僕はおのずと入り口のところでドアが閉まるのを待つことになる。この頃は、ドアにもたれるのが男の電車の乗り方だと信じて疑わなかったから。

正直言って、このときはもぅ里菜の存在を忘れていた。里菜がどこにいるかも見ていなかったし、気にもしてなかった。そぅ、気にしていなかったのに…。電車がしまって身をドアにあずけて得意の瞑想にうつろうとしたとき、何か視線を感じた。見回していた目は、里菜を探していたのかもしれない。そして、当然のように4人掛けをひとりで占領している里菜に焦点が合った。里菜は目があうと荷物を向かいの席に移し自分は窓側へ移動した。そして自分が座っていた席をぽんぽんと叩いて手招きしている。僕は驚く野球部を横目に見つつ、誇らしげに里菜の隣に腰を下ろした。

電車が里菜の下りた上の町駅に着くまでの間、話はほとんど同じだった。インパラ、インパラ、インパラ。ここまでしつこく言われなかったら今の今まで興味もないアメ車の名前なんて覚えてない自信がある。どの年代のどの型がいいだの、この色とこの色で迷うだの、うれしそぅに話し続けた。

「じゃあね」別れはあっさりとしたもんだ。僕は「もし買ったら、乗せてください」と言ったけれど「児島には行かんと思う」と言い放っただけだった。しかも雑誌をかばんに押し込みながらの生返事。僕は、さっそうと電車を降りた里菜を目で追うことはやめた。



名前も知らない関西弁の年上の女性。僕の記憶の中には、もう彼女の顔も声もほとんどない。僕は彼女を覚えていないのだ。ただ、彼女は僕にひとつの足跡を残していった。その足跡は今も僕のなかにしっかりとついていて困るけれど、それだけが彼女の存在を証明してくれる。

アメ車を見ると無意識に運転席に目がいく“くせ”は当分とれそうにない。

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コメント


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巧く人と話ができるあなたが羨ましい、巧く文章を書けるあなたが羨ましい。
俺、一応専攻文学なんだけどなぁ・・・。
続きを楽しみに待っています!

モランボン | URL | 2005年12月05日(Mon)12:21 [EDIT]

僕も先日『うわっ to love』した女の子に彼氏がおることをしって居た堪れない気持ちになりました。


知らなきゃ、よかった。って思うことばかり

蒼い野獣 | URL | 2005年12月05日(Mon)13:14 [EDIT]

花火のときといい、隣におる初対面の人にさらっと話しかけれるあなたがうらやまーです。

Uじ | URL | 2005年12月05日(Mon)18:39 [EDIT]

完結!!!

>モランボン
こんなんで許して。どぅせならもっとじっくり書きたかった。

>蒼い野獣
“うわっ 辛っ”の典型やね。がんばっていきまっしょい。

>Uじ
このとき培われていたことに今気付いたよ。

虹原 | URL | 2005年12月08日(Thu)22:37 [EDIT]

俺イチゴイチエ書くのやめるわ。。。
もう全部持ってかれた。

3110 | URL | 2005年12月08日(Thu)23:37 [EDIT]

読んでいてドキドキする。ストーリー展開でした。いまだに体がふわふわするような感覚に襲われます。脱帽です。

蒼い野獣 | URL | 2005年12月09日(Fri)13:15 [EDIT]

おめえ強ええな。オラ参ったぞ。

孫悟空 | URL | 2005年12月09日(Fri)13:25 [EDIT]

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